関わりの深かった上司が出世した。面倒を見てもらっていた私達のこと以外にも色んな人を見なければならず、これまでのように目をかけられないということで、最後に一人ひとりにメッセージがあった。私宛には「期待しているんだから今の3倍の速度で成長しろ!」と書いてあった。
成長とは何か。以前上司に聞いたら、自覚できることだと言った。前よりもこうなった、とかこういうことに気づけるようになった、とかが分かることが成長と言うらしい。そういう点では確かに1年前より成長している。がこれを3倍の速さでやらなければならないらしい。上司は、君の成長は線形だとも言った。経験したぶんだけ成長するタイプらしい。となると3倍成長するには3倍経験をする必要があるが、超勤しろという意味ではないだろうから、頭を使って工夫して、3倍の仕事をこなすようにならなければならない。
開発リーダーにも以前、君はシングルスレッドのようだ、と言われた。1つの仕事をやらせると申し分無いがマルチタスクは効率が悪い、という意味だった。そんな気はしていたが、傍から見てもそうであったか。
シングルスレッドの癖は大学院のときに棋士を真似して身につけたものだ。大学院で研究活動を行うにあたって、同じ事柄について辛抱強く考える必要がった。進学して直ぐは自身の集中力の低さに悩んだ。
そんなときに、松本に羽生善治が名人戦で来るからというので後輩に誘われて見に行った。棋士の試合というのはNHK杯しか見たことがなかったので、盤から離れて良いということを知らなかった。羽生善治は盤からしょっちゅう離れた。「盤から離れて一度頭を将棋から引き剥がし、再度新鮮な頭で組み立て直すのだ」と大判解説の棋士が言っていて、研究も同じようにやったほうが良いのではないかと思った。真似して癖づいたのがシングルスレッド的な思考法だった。具体的には1時間半~3時間ほど考えたら30分~1時間は散歩をして脳みそをいちど引き剥がす。引き剥がし終えたら再度思考を再会する。これを1日2,3セットやるというのがシングルスレッドのやり方だった。思考というのは、アリの巣の上にスライムを置いて、一番奥深いところを目指すような感じなのだ。1セット目は浅く広い範囲で探索して深そうな道を探す。道は続いているがスライムが伸びなくなってくるタイミングが来る。スライムは有限なので、行き止まりの道に行ってしまったスライムを回収しなければ伸びなくなってしまう。こういうタイミングで散歩に出る。そのうち引き剥がれて初期状態の丸い形に戻る。次の2セット目は1セット目で一番深くまで行った場所までは効率よく進み、そこからまた深そうな道を探すのだ。こうして思考は深まる。
これは研究のときには有効だったし、就職してからも1つのタスクに集中する場合は良かったが、コアを冷やす散歩の時間が長すぎるし社会人はマルチタスクが多い。だから3倍の速さで成長しろ、と言ったんだろう。
最近「400のプロジェクトを同時に進める 佐藤オオキのスピード仕事術」という本を読んでいる。佐藤オオキという人は、THREEの化粧品のパッケージデザインについて調べていたら知った。あまりにも良いデザインだったので、デザイナーは誰なのか気になって調べたのだ。本を何冊か出していたので、ひとつ手にとって読んでみたら私と同じような考え方をしている人だと分かった。私の考え方は世間一般でデザイン思考と呼ばれていることも彼の本から知った。そういう似たような思考を行う人が仕事を並行して素早く遂行する術を身に着けているというのが驚いたし、本になっているのだから読んで並行で仕事を行う思考法も真似できるのではないかと思っている。
まだ読んでいる途中だが、現時点で気づきがあった。それは散歩に出なければならないほど煮詰まってはならないということだった。長時間の休憩を要するほど嫌になってしまうその前に違う仕事に移りなさいということだ。こういう頭の使い方はしたことが無かった。それに嫌になるタイミングは突然来るのだ。ヒンジ関数的なのでタスクを切り替えるタイミングが掴めない。こういう点も論じられていると良いな。
今日は長くなった。以上。